2022/08/28 19:10


中原クラフトで使っている帆布は、岡山県倉敷市の織物工場で作られた綿100%の帆布です。岡山市内にある当クラフトにとっては、地元産ということになります。

岡山から倉敷の一帯は、中世まで「吉備の穴海」と言って、かなりの面積が海でした。海と言っても、干潮時には干潟になる遠浅の海だったようですが、戦国時代の末期あたりから本格的な干拓が始まり、次第に陸地が増えていきました。

ところが干拓によって作られた土地には海水の塩分がまだ残っています。このままでは通常の作物は育ちません。そこで植えられたのが綿花なんですね(他には畳の原料になるイグサも植えられたようです)。綿花は塩害に強く、尚かつ土壌にある塩分を吸収してくれる作用があるのです。

綿が収穫できれば、それに伴って繊維産業も興ってきます。現在の倉敷市にあたる地域では、江戸時代後期から木綿の生産が始められ、明治時代には紡績工場も建てられます。現代では綿花自体はもう栽培していませんが、繊維産業はずっと続いていて、ジーンズや学生服などが倉敷市の児島を中心に作られています。帆布もそうした生産品のひとつです。

綿糸から作られるのが綿帆布ですが、一般の皆さんがまず思い浮かべるのはバッグなどのアパレル製品かもしれません。しかし、じつは工業用途を始め、色々なところで用いられています。例えば、体育の授業でお馴染のマットや跳び箱の天面に張られているのも綿の帆布。意外なところでは、相撲の力士が締める稽古用まわしにも使われています。

綿帆布が持つ一番の特徴は「丈夫さ」にあるでしょう。しかし、単に耐久性を求めるだけなら、ナイロンやポリエステルも丈夫です。実際、綿帆布が化学繊維に取って代わられた例はたくさんあります。にもかかわらず、この帆布が現在まで生き残って、愛され続けている理由は、そのような機能性だけでなく、手触りや質感といった私たちの情緒に訴えかける部分が大きいからではないかと思います。

生地の風合いも、使い込むうちにより柔らかくなったり、肌になじみやすくなったりします。当然、色も褪せてきたりしますが、それを含めて愛好する方々がいます。経年変化が必ずしもマイナスにはならない。むしろ、愛着を湧かせるものになる。そういう意味では、ジーンズやレザーアイテムにも似た部分があるかもしれません。

ちなみに、当クラフトが生地が仕入れている織物工場では昔ながらのシャトル織機が使われています。よこ糸をシャトルという紡錘状のものに巻き付けて、たて糸の間を往復させるやり方です。今の織物業界の主流はシャトルを使わない織機で、それらに比べるとシャトル織機は生産スピードも遅いのですが、糸に負担をかけないので、それによって余裕のある、ふっくらとした柔らかい風合いが生まれます。

シャトル織機は手間もかかります。シャトルに巻き取られた糸の量しか一度に織れないため、その糸が無くなれば、当然職人さんが新しい糸を補充してやる必要があります。また、現在は生産されていない織機のため、何かとメンテナンスも必要になります。実際、工場見学したときには、随所に職人さんがいて作業にあたっていました。

手間ひまをかけて織られた生地には、独特の風合いがあります。そしてお客様の手に渡った後も、使い込むことで新たな風合いが加えられていく。それは生地を介して、作り手と使い手がひとつの物語を紡いでいくようでもあります。長い歴史の末に作られている倉敷産の綿帆布。ぜひ一度、触れてみて頂ければと思います。